[著者情報]
佐藤 健二(さとう けんじ)矯正歯科専門医(日本矯正歯科学会 認定医)成人矯正を中心に1,000件以上の症例に携わる。「医療は医師の押し付けであってはならない」という信念のもと、最新技術の提供だけでなく、患者様の恐怖心やライフスタイルに寄り添った「納得感のある治療計画」の提案を最優先している。
「骨にネジを打つなんて、想像しただけで怖い……」
YouTubeやSNSで矯正の埋入動画を見てしまい、その衝撃的な光景に震えていませんか?歯科医から「より綺麗に下げるならアンカースクリューが必要です」とサラッと言われ、断ったら治療が失敗するのではないかと、夜も眠れないほど悩んでいるかもしれません。
結論からお伝えします。アンカースクリューを断ることは、患者様としての正当な権利であり、可能です。
もちろん、断ることで生じるリスクはありますが、それを補う代替案も存在します。この記事では、矯正認定医の視点から、スクリューを拒否した場合のリアルな影響と、後悔しないための3つの代替案、そして先生に嫌われない具体的な相談方法を詳しく解説します。
この記事を読み終える頃には、あなたの心にある「強制される恐怖」が消え、納得して次のステップへ進めるようになっているはずです。
なぜ「ネジを打つ」と言われるの?アンカースクリューが必要な本当の理由
「昔の矯正にはなかったのに、なぜ今はネジが必要なの?」という質問をよく受けます。実は、アンカースクリュー(歯科矯正用アンカースクリュー)は、矯正治療を劇的に「楽」にするために開発された便利な道具なのです。
かつて、出っ歯を大きく下げるためには「ヘッドギア」という装置が主流でした。これは頭や首を固定源にして、外側から歯を引っ張る装置です。しかし、1日12時間以上の装着が必要で、見た目の負担も大きく、働く女性にとっては非常にハードルの高いものでした。
そこで登場したのがアンカースクリューです。アンカースクリューとヘッドギアは、どちらも「歯を動かすための動かない支柱(固定源)」という役割では共通していますが、スクリューは骨に直接固定するため、患者様の努力に関わらず24時間安定して歯を動かし続けることができます。
つまり、医師がスクリューを勧めるのは、あなたを怖がらせるためではなく、最短ルートで、かつ確実に理想の歯並びを作るための「効率的な支柱」が欲しいからなのです。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: アンカースクリューは「魔法の杖」ではなく、あくまで治療をスムーズにするための「高性能な道具」の一つに過ぎません。
なぜなら、『スクリューがなくても矯正治療自体は成立する』という事実は多くの人が見落としがちですが、スクリューがなくても矯正治療自体は成立するからです。大切なのは「ネジを打つこと」ではなく、あなたが無理なく続けられる方法でゴールを目指すことです。この知見が、あなたの不安を和らげる助けになれば幸いです。
断ったらどうなる?知っておくべき3つの具体的リスクと「妥協点」
スクリューを断る決断をする前に、専門医として「起きうる現実」を誠実にお伝えしなければなりません。アンカースクリューという強力な固定源を失うことは、治療の精度や期間に直接的な影響を及ぼします。
具体的には、以下の3つのリスクを理解しておく必要があります。
- 治療期間の延長(例えばスクリューを使えば2年で済むケースが、2年半〜3年程度かかるなど)
スクリューを使わない場合、他の歯を支えにして動かすため、一度に動かせる距離が短くなります。結果として、全体の治療期間が延びる傾向にあります。 - 前歯の下がり方の限界
「出っ歯を限界まで下げたい」という希望がある場合、スクリューなしでは奥歯が前方に引っ張られてしまい(アンカーロス)、前歯を十分に下げきるスペースが足りなくなることがあります。 - 奥歯の移動(圧下)が困難になる
ガミースマイル(笑った時に歯茎が見えすぎる状態)の改善など、歯を骨の方向に押し込む動きは、スクリューなしでは非常に難易度が高くなります。

スクリューなしでも綺麗になれる?専門医が教える3つの代替案
「リスクは分かったけれど、やっぱりネジは怖い」という方へ。アンカースクリューを使わずに理想に近づくための、3つの具体的な代替案をご紹介します。
ネジを打つ代わりに、アンカースクリューの代替手法として代表的なのが「顎間ゴム」や「抜歯の併用」です。 これらを組み合わせることで、スクリューなしでも良好な結果を得られるケースは多々あります。
| 治療法 | メリット | デメリット・注意点 | 患者様の努力度 |
| アンカースクリュー | 最短期間で最大の効果。 ガミースマイルにも対応。 | 外科的処置(埋入)が必要。 脱落のリスク。 | 低 <small>(寝ている間も動く)</small> |
| 顎間ゴム | 手術不要。 自分のペースで進められる。 | 1日20時間以上の装着が必要。 サボると動かない。 | 極めて高 |
| 抜歯の併用 | スペースを確実に確保できる。 | 健康な歯を抜く必要がある。 | 中 <small>(抜歯の治癒期間)</small> |
| 治療ゴールの修正 | 精神的・身体的負担が最も少ない。 | 100点満点のEラインは 難しい場合がある。 | 低 <small>(納得感が必要)</small> |
特に「治療ゴールの修正」は重要です。例えば「横顔のEラインを完璧にする(100点)」のではなく、「今のコンプレックスが解消され、笑顔に自信が持てる状態(80点)」をゴールに設定すれば、スクリューなしでも十分に満足できる結果が得られます。
先生に嫌われない「断り方」と、後悔しないための相談シート
最後に、最も勇気が必要な「先生への伝え方」についてアドバイスします。
「断ったら先生に嫌な顔をされるかも……」と不安になる必要はありません。歯科医師には、患者様の不安を取り除き、納得できる選択肢を提示する義務(インフォームド・コンセント)があるからです。
建設的な相談にするために、以下のフレーズを使ってみてください。
💡 医師への相談用フレーズ集
- 「動画を見てしまい、どうしても恐怖心が拭えません。スクリューを使わない場合、私の歯並びはどこまで改善できますか?」
- 「期間が延びても構わないので、顎間ゴムなど他の方法で代用することは可能でしょうか?」
- 「100点満点の仕上がりでなくても良いので、ネジを使わずにできる範囲の治療計画を教えてください。」
このように、「ただ嫌だ」と拒絶するのではなく、「恐怖心があること」を正直に伝えつつ、「代替案での着地点」を一緒に探したいという姿勢を見せれば、腕の良い医師なら必ず親身になって応えてくれます。
まとめ & CTA (行動喚起)
アンカースクリューは、現代の矯正治療において非常に優れた道具ですが、あなたの心と体の安心を犠牲にしてまで強制されるべきものではありません。
- スクリューは「絶対」ではなく「効率化」のための道具。
- 断るリスク(期間や仕上がり)を理解した上で、代替案を検討する。
- 「怖い」という感情を大切にし、医師と誠実に相談する。
あなたの体は、あなただけのものです。納得できないまま治療を進めるのが、一番の後悔に繋がります。次回の調整日に、ぜひ上記のフレーズを使って先生に思いを伝えてみてください。あなたの勇気ある一歩が、心から笑える未来への第一歩になるはずです。
[参考文献リスト]
- 歯科矯正用アンカースクリューガイドライン – 公益社団法人 日本矯正歯科学会
- 矯正歯科治療の基礎知識 – 東京歯科大学千葉病院


